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狐火 [雑文]

 結婚を機に親がここに家を建てた頃、周りの平たい土地は畑ばかりだった。家の前の路地は砂利道で数年後に舗装工事がなされた。生活排水もままならない環境で、庭の隅に深い穴を掘って、そこへ水を流していたという。トイレは汲み取り式だった。かすかな記憶をたどってみると南へ向かう道の先は畑ばかりで、スイカ畑のあったことが今も強く印象に残っている。その畑も今ではことごとく似たような家が連なる建売住宅の宅地になってしまった。

 反対の北の丘陵へ足を運ぶと一面が水田だった。その辺りは今も水田のままだ。田んぼの土壌に家を建てるのはなかなかに難しいことらしい。だから耕作放棄された田畑が目立つことにもなる。家と畑の間にぽつぽつと残されていた雑木林もすっかりなくなってしまった。

 母がここに住み始めた頃は、家の窓から遠く見える雑木林の木々の間に、ぽつぽつと灯る狐火をよく見たそうだ。ふと光るものが見えた時、不思議に思ってしばらく眺めていると、ひとつふたつと数を増し、やがて列をなしてまたたき始める。まるで見られていることを意識しているような光り方だったという。台所の出窓を開けて夕餉の支度をしながら、よく見たそうだ。

 祖父も若い頃、勤め帰りに駅から家まで歩く間、狐にバカされて同じ道を何度も歩かされたことがあるという。そうしたことに縁のある血筋なのかもしれない。当時の大人の男にしてはめずらしく、祖父はたばこを喫まなかった。けれど通勤鞄にはハイライトとライターをいつも入れていた。バカされたことに気がついた時、道端に座り込んで一服つけて再び歩きだすと家の灯りが見えた。狐というのはたばこの煙が苦手だということだった。
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