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木犀 [雑文]

 茶の間の窓を開けたところに、ブリキ缶のごみ箱が二つ置いてある。フタのある、昔ながらの、両手でひと抱えもあるブリキ製のゴミバケツ。今はほとんどその役割は、ポリバケツに取って代わられている代物。一つには空き缶、もう一つには空になったペットボトルを入れる。

 その朝も、前夜に飲んだ缶ビールの空き缶を、ブリキ缶に入れようと茶の間の窓を開けた。ほんのかすかにいつもと違う空気を感じた。そのわずかな違いが何に由来するのか、その時は特に何も考えることなく窓を閉めた。

 その翌日、朝の空気を部屋に入れようと窓を開けた時、前日のことなどすっかり忘れていたのだけれど、やっぱり何か違うように感じた。大きく息を吸い込むと、その違いがかすかな匂いだと気がついた。匂いに気づいたものの、今度はそれが何の匂いだったのか思い出せない。かすかな匂いなので、ふとした拍子に鼻先から逃げてゆく。確かに覚えがあるはずなのだけど、思い出せそうで思い出せない。

 あ、キンモクセイの匂いだ。
 そう思いついたのは、その日の昼飯を食べている時だった。
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秋眠 [雑文]

 エアコンのない部屋で、夏の間はずっと窓を開け放して寝ていた。だいぶ涼しくなってはきたけれど、何となく習慣みたいにまだ開けたままで寝ている。たまに蒸し暑い日もあるけれど、そういう日でも夜には少し冷えるので、夏掛けを厚い布団に替えた。

 夜明け前が一番冷え込むという。
 朝起きた時、布団から腕や足を出すと敷布団のシーツがひんやりとして気持ちがいい。うつ伏せになって、顔をシーツにこすりつけたりしても気持ちがいい。

 熱帯夜の寝苦しかった夜を思い返すと、今はとてもよく眠れるようになったのだと思う。暑かった頃は、それと意識していなかったけれど熟睡できていなかった気がする。それで起きていてもどこかだるい感じがした。食欲は落ちなかったけれど、それも夏バテだったのだろう。

 寒くなって、朝布団から出られなくなる、というのとは違う。今は眠ることが気持ちよくて、ずっと眠っていたくて布団から出られない。
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