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夜話 [雑文]

 夜、一人部屋で読書などをしていると、家の前を歩く人の話し声がよく響いてくる。話している人たちは、普通の声音でしゃべっているつもりなのだろうけれど、この辺りのしんとした路地ではよく声が通る。声は聞こえても話す内容までは分からない。これだけ大きく声は届くのに意味のとれない会話を聞くことは、とても落ち着かない心持ちになる。そんな心持ちになる日が続くうち、家の前を歩くのは人ならぬものではないか、という妄想がふくらむ。

 ここ一週間、決まって夜の九時頃に家の前を歩く親子の声を聞く。親子というのはまったくの推測なのだけど、父親らしき男性の声と小学生の男の子を思わせる声だった。ゴム製のサッカーボールかバスケットボールか、たぶんそんなものをつきながら歩いている。アスファルトにボールの跳ねる音と、囁くような二人の話し声が聞こえてくる。ボールの跳ねる音と足音が次第に遠ざかり、やがてそれらは消え入るように聞こえなくなる。

 表に出て確かめてみようか、と思わないこともない。
 けれどきっと、あの二人連れに会えることはないのだろう、という予感はする。
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